
私はプロのアナウンサーですが、咽頭が細く、何度も声帯を痛めました。特に女性は男性に比べて筋力が少ないこともあり、無理な発声は声帯を痛めます。生放送前夜に声が出ずらくなり、祈るような思いで朝を迎えたことも何度もあります。また、強い薬を飲んで胃腸を傷めたり、それでも結局声が出なくなって本番を他の方に代わっていただいたこともありました。悔しくて、情けなくて落ち込みました。
当然耳鼻咽喉科の専門医に診察してもらいますが、多くの先生から「のどが腫れているね。薬を飲んで声を使わないよう休めてください」といわれておしまい。声が出ないと仕事にならない自分とすると死活問題になります。声の仕事は、アナウンサーだけではなく、プロのボーカリストもいます。有名なボーカリストが、声帯炎、咽頭炎、声帯ポリープなどでコンサートをキャンセルしたり、1年間休養なんていうニュースも時々あります。コンサートがキャンセルとなると、スポンサー、スタッフ、チケットを購入の払い戻しなど、大変な損害が出るというのを有名なアーティストさんから聞いたことがあります。
一般の人も声が出なくなると仕事や生活に大きな支障がでます。声のトラブルで私のところを尋ねる方の多くは、女性、さらに幼稚園、保育園の先生、小学校の教師の方が多くいらっしゃいます。
声のプロだけではなく、様々な職業の方がその対処方法がわからずどうしたらよいのか悩んでいます。であればその原因と対策を声のプロである私が研究して、みなさんのお役に立てればと考えました。
声の変化を感じたときには、多くの場合、なんらかの原因があります。咽頭炎などによる風邪、大声を出す、カラオケなどの声の使い過ぎ、喫煙、中には、喉頭がんなど怖い病気が隠れていることがあります。また、最近では逆流性胃炎による声帯炎も報告されています。実は私も人間ドックで胃カメラの検査をしたときに、指摘されたことがありました。逆流性胃炎※は誤嚥性肺炎の原因になっていることもあり、夜遅い時間の食事はできるだけ避けるようにしています。
※逆流性胃炎:食道下部の筋肉が緩むことや、ストレスなどによる胃酸過多によって起こります。胃酸がのどまで逆流してくると、のどの違和感、声が出にくい、咳といった症状が起こることがあります。
さて、まず声が変だ!と感じたときには耳鼻咽喉科を受診してください。そしてよい先生を見つけてください。
特に、声の仕事をしている方は、マストです。一口に耳鼻咽喉科といっても、すべての先生が音声に精通しているわけではありません。耳専門、鼻の専門の先生は多くいらっしゃっても、喉の微細な変化を指摘してくれる先生は少ないです。私も現在お世話になっている、宇都宮市のみやた耳鼻咽喉科クリニック(〒320-0851 栃木県宇都宮市鶴田町1360−3)の宮田先生に出会うまでは、大学病院から開業医の先生までたくさんのお医者さんに掛かり、自分の話に耳を傾けてくれるドクターを探して、ドクターショッピングしていました。
都内であれば東京ボイスセンターなど、音声の特化した外来がある病院もありますが、地方では多くの方がドクターショッピングをし、中にはあきらめてしまう方もいらっしゃいます。
また、医師たちはそれ以前の患者さんの声を聴いていないため、その変化は本人や周囲の人しかわかりません。声の変化は女性のほうが敏感に感じるといわれています。内視鏡で声帯の表面を見ると、微細なポリープを発見することがあります。多くの耳鼻科医が見逃してしまうほど小さなものだったりします。そういう小さな変化に耳を傾けてくれる先生に出会ったら、のどの調子が悪くなりそうだと思った時に、悪化を防ぐことができます。
①薬による治療
治療は、薬物治療(消炎鎮痛剤、抗生物質、咳止めなど)、ネブライザー(吸入)などを行います。特に声が変だなと思った時にはなるべく早く受診することをお勧めします。
②ポリープ・結節の切除手術
咽頭炎や声の使い過ぎによる炎症で、声帯にタコようなものができる声帯ポリープや声帯結節は、痛みが取れても声枯れや声が出にくいなどの症状が続きます。ポリープや結節がある程度大きくなると手術が適用になる場合があります。全身麻酔で短時間で終わるケースが多く、3日間程度の入院が必要です。
③喉の衛生管理
声帯は、水分を多く含んでいないとうまく機能しない器官です。声帯が健康な時には、声帯表面に粘膜波動が見られます。声帯の中央部がリボンのように運動して見えます。この粘膜波動が消失すると、声がうまく出せなくなります。また、乾燥していると声帯は二枚の膜が振動してぶつかり合うときの摩擦が大きくなり、切れたり傷んだりします。この状態でさらに無理な声を出すと、声帯が赤くなってむくんだり、時には切れてしまったり、その状態でさらに使い続けると声帯結節、声帯ポリープになることもあります。特に乾燥しているシーズンには、水やお茶を飲んで声帯周囲の湿度をあげるなどしましょう。出がらしのお茶はお勧めです。普段からマイボトルを常備し、唇が乾燥して来たら、まめに水分をとるようにしてください。極端に熱いものではなく、できれば、出がらしのお茶がちょうどよいです。緑茶は殺菌効果がありますが、のどが渇きますので、濃いお茶はあまりお勧めしません。
④ホルモンバランスによる変化に注意
女性の場合は閉経や月経によってホルモンバランスが変化します。ホルモンは体の水分バランスを維持するための大切な道具です。生理前後は水分バランスによって喉を傷めるリスクが高くなります。また閉経後は水分バランスが崩れて潤いが減ったり、声帯自体固くなり、声が低音化しやすくなります。男性の場合は渋い声、と言われてプラスイメージととらえる方が多いのですが、女性の場合は声の性別が男性化する場合もあり、気づいたらおじさんみたいな声になっていた…なんてことにもなりかねません。特に女性の場合は、体調の変化が声に出やすいので、気を付けてください。
⑤声の酷使をしていませんか?
声の悩みを寄せる方の中に、趣味でカラオケや、バンドをやっている方がいます。中には風邪をひいていても、喉が真っ赤にはれ上がるまで長時間歌う方もいます。また、教師の仕事をしている方で、喉を休めることなく、3-4時間授業でしゃべり続ける方もいらっしゃいます。声帯に炎症が起こると、声帯は少し赤みがかった浮腫性の声帯になります。見た目はちょっとぶよぶよした感じになります。ぴたりと締まるはずの声門、声帯に隙間ができ閉まらなくなると、息漏れが起き、ガサガサと雑音混じりの声になったり、声を出そうと思ってもうまく出ません。また、声帯がいったんむくむと、むくみがとれるまでに1週間ほどかかることがあります。また女性の場合、生理中は声帯にむくみがでたり、内出血して赤みがでることがあります。そんな時には無理な発声をしないようにしてください。
⑥ボイストレーニングによる正しい発声方法を知る
声帯を傷める方は繰り返す方が大変多いです。ポリープの手術を受けても繰り返し喉を傷める方がいらっしゃいます。その理由は、声のケアの仕方知らない、発声のメカニズム知らない、そして効率の良い発声を方法を知らないことが考えられます。声のプロたちは日々の仕事の中で、長時間しゃべっても声を傷めない発声方法を経験的に獲得しています。しかし、発声の理論を知る人はほとんどいません。まずは当たり前のように発声している声の基礎知識を学ぶことで、今のあなたの声を守り、より効率よい発声方法を知ることができます。
●声帯はとても繊細な器官
●正しい姿勢で発声するのには理由がある。
●声帯を乾燥させないようにケアをする
●声帯に無理な負担をかけないよう大きな声を出し続けない



